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ハマっ子の心のオアシス〜レストラン コトブキ〜

 横浜は言わずと知れた港町。1854年にペリー率いる黒船来航から1859年に開港して以来、外国から様々な文化を取り入れ、先人のハマっ子たちはそれら文化を自分らのものにしてきた。洋食文化もその一つで、ホテルニューグランドで日本人の米飯を使って作り上げたエビドリアやスパゲッティナポリタンなど日本人の口に合う洋食を誕生させて以来、その周辺のあちこちでも洋食屋が生まれた。古くは川村屋(現在は立ち食いそばに業態変更)、米国風洋食センターグリル、洋食キムラ、レストラン桃山、洋食美松etc…。


 その中でも個人的にひときわ思い入れの深い洋食店が伊勢佐木町にある「レストラン コトブキ」だ。なんと言っても24時間営業、すっかり寝静まった時間にも煌々と光る灯。すっかり酔っ払って途方にくれた時、腹が減ってしょうがない時、この灯はまるでオアシスのようなものである。
 酔っ払って食べるナポリタンは素朴だがたまらなく美味いし、粘っこいまっ黄色のカレーライスやレバカツは重要文化遺産に指定したいくらいだし、ちょっと財布に余裕があれば、鉄板2枚乗せのポークソテーで腹も心も満たされる。


そんなある日、24時間営業の「レストラン コトブキ」が、2日間だけ休業していた。張り紙には、

「当店前店主 鈴木誠一が永眠致しました 葬儀の為24、25日休ませて頂きます」

 営業再開後に訪ねた。亡くなられた方は2代目との事。


「人が一人死ぬって事は、いろいろと大変なことなのよね…。」


 ママはつぶやいた。


 昭和29年に創業以来、24時間営業を続けている。現在のお店はイセザキモール沿いであるが、創業時は現店舗から数分とかからない若葉町の日劇のそばにあった。映画界全盛の時代、「日劇で映画を観た後はコトブキで洋食を気取る」のが当時の人々のスタイルであったそうだ。


「もう日劇もなくなっちゃって、うちもすっかり古くなりました…。」


 ママはまた、寂しげにつぶやいた。


 50年以上もほぼ年中無休で24時間営業というのは本当にすごい事だと思う。並々ならぬ苦労も多々あったであろう。しかし私のような酔っ払いの食い道楽、周辺の街の事情から察することができる深夜の仕事を終えた朝帰りの人々、リタイヤした余暇にランチを楽しむ人々、国籍も身分も年齢も性別も関係なく、長年に渡り優しく、温かく迎え入れてくれる「レストラン コトブキ」。「来る者拒まず」のハマっ子特有のホスピタリティーを感じてならない。


 現在、3代目店主が頑張ってくれている。


「また、いらしてくださいね。」


 帰り際、ママが言ってくれた。そのママの言葉に、「レストラン コトブキ」の灯は、まだまだ当分は消えないだろうと、ちょっぴり安心して、店を出た。


「レストラン コトブキ」
横浜市中区伊勢佐木町5−129−9
045-251-6316
24時間営業 不定休


▽参考
第7回 ヨコハマの洋食(3)…伊勢佐木「コトブキ」
http://www.maboroshi-ch.com/cha/kon_31.htm


記事:田中 健介
横浜市戸塚区生まれ。介護福祉士として市内に勤務の傍ら、神奈川大学第二経済学部を30歳で卒業。現在は何故か市内のパン工場に勤務の傍ら生まれ育った愛着ある横浜の街を多方面で深く見つめ続ける。現在横浜市中区在住。神奈川検定横浜ライセンス3級。